※大会規定により、８回は１死満塁のサドンデスを実施

優勝戦実況

それがいい試合であればあるほど、いつまでも終わってほしくないという贅沢な欲望が起きるものだ。延長サドンデスの末に劇的な逆転サヨナラ勝ちで勝敗が決まったとき、プロ野球などの試合ではないため、普段はさほど騒がしくないスタンドからも、自然に大きな拍手がわいた。両チームに勝たせたい、どちらも敗者にはしたくない。この日詰め掛けた観衆はすべてが、そう思っていた。 ▲第16回大会優勝戦 軍配はどちらに 　参加256チームが頂点を目指して戦った2007年の春。決勝の晴れ舞台に残った２チームは、投打に好選手をズラリ揃えた実力チーム同士の対決となった。一方は自慢の強打を武器に豪快な野球で勝ち進んできたヤンキース（世田谷区）。もう一方は、豊富な経験と緻密な野球が武器の昨秋準優勝・ＴＮＣスパークス（荒川区）。大会を代表する強豪同士による優勝戦は、果たしてどんな展開になるのか。何が勝敗を分けるのか。予断を許さない期待感とともに、平成19年6月10日、午前9時45分、大一番は幕を開けた。 　この試合はヤンキースが大黒柱のエース・土屋、ＴＮＣスパークスは今大会急成長を見せた新エースの井上という、大方の予想通り両右腕の先発で試合は始まった。

先制したのはＴＮＣスパークス。２回、１死から５番・永森がレフト前ヒットで出塁。続く６番・小椋は絶妙なセーフティーバントを決め、１死１・２塁と先取点のチャンスを迎える。続く７番・鈴木は追い込まれながら死球となり、１死満塁とさらにチャンスを広げると、この好機に迎えた次打者の８番・小平が放った打球は平凡なサードゴロ。しかしこれを３塁手がホームに悪送球し、送球がバックネットに転がる間に２者がかえり、ＴＮＣスパークスがラッキーな形で２点を先制する。 ▲２回、相手悪送球でＴＮＣが２点を先制

一方、先制されたヤンキースは直後にすぐさま反撃する。３回、この回先頭の７番・大内田がライト前ヒットで出塁すると、１死後、代打・田崎がセンター前ヒット、さらに１番・岡田が四球を選び、１死満塁と一打逆転の大きなチャンスを作る。ここで２番・井倉が放った打球はセンターへのライナー。しかし当たりが痛烈だった分、飛び出した３塁ランナーの帰塁が遅れタッチアップできず２死となる。チャンスが潰えたかに思われたヤンキースだったが、次打者のとき、ＴＮＣスパークス・井上投手がまさかのワイルドピッチで３塁走者が生還し、ヤンキースがあっさりと１点を返した。 ▲ヤンキースも直後にすぐさま１点を返す

▲３回、鮮やかにたたみかけリードを広げた 　しかし１点差に迫られたＴＮＣスパークスはすぐに突き放す。３回裏、先頭の１番・浅場が内野エラーで出塁すると、ここからＴＮＣスパークスの真骨頂と呼べる攻撃パターンが始まる。続く２番・窪田が初球をきっちり送りバントを決め１死２塁とすると、３番・佐藤のとき、１塁走者の浅場がこれまた初球に３塁へ盗塁、１死３塁の“型”を作る。ここでＴＮＣスパークスはカウント１-１からの３球目にエンドランを慣行。これが見事に決まり、ＴＮＣスパークスが流れるような鮮やかな攻撃で、３-１とリードを再び２点差に広げた。

その後は両軍ともに走者は出すものの、ヤンキース・土屋、ＴＮＣスパークスは４回からマウンドに立った小林が後続を抑え、０行進が続く。このままＴＮＣスパークスが逃げ切るのではないかという雰囲気も漂い始めた終盤、ヤンキースが粘りを見せる。２点差を追う６回、２つの四球で２死ながら１・２塁のチャンスに、６番・村上が初球のスライダーを狙い打ち。打球はライトの頭上を越える値千金の３塁打となり２者が生還。終盤の６回についに３-３の同点に追いつく。 ▲村上の一打で同点に追いつき沸くナイン 　一方、追いつかれたＴＮＣスパークスは最終回の７回裏にチャンスを迎える。この回先頭の７番・鈴木が内野安打で出塁すると、続く代打の川上のときワイルドピッチで２塁に進み、一打サヨナラの絶好の好機を迎える。ここでＴＮＣスパークスが取った作戦は意表をつく３塁へのスチール。しかしこれは間一髪アウトとなり、ＴＮＣスパークスは貴重なサヨナラの走者を失う。結局、試合はこのまま３-３の同点のままで終了。特別ルールによる延長サドンデスに突入した。

▲サドンの表、井倉の２塁打で２点を挙げる 　１死満塁から始まる特別ルールは双方任意の打順からスタートする方式。ヤンキースは１番・岡田からの打順を選択。しかし期待された岡田は空振りの三振に倒れ２死。このまま無得点に終わると一転してサヨナラの大ピンチを迎えかねないヤンキースだったが、続く２番・井倉がチームの危機を救う。井倉はカウント２-２からの５球目を左中間に弾き返し、これが特大のエンタイトル２塁打となり２者が生還。５-３とまずはヤンキースが２点を奪い攻撃を終える。

一方のＴＮＣスパークスはその裏、３番・佐藤から始まる打順を選択。表の攻撃で２点を取られているだけに、どのような攻撃を見せるのか注目されたが、佐藤はカウント２-２と追い込まれるも、ヤンキース・土屋が三振を狙いにいったフォークボールがすっぽ抜けまさかの死球となり、まずは押し出しで１点。さらにＴＮＣスパークスは続く４番・貞のとき、一か八かの奇襲に出る。ワンボールからの２球目にエンドランを慣行。しかしこれを貞がバットに当てられず空振り。３塁走者・浅場が三本間に挟まれ万事休す。このまま２死となりチャンスは潰れたかと思われたが次の瞬間、ＴＮＣスパークスは高度な走塁で窮地を脱する。三本間に挟まれた３塁走者・浅場がサードに戻る際、捕手からの３塁送球を冷静に見極め、ギリギリ送球線上に走路を取る。この結果、３塁手からは送球が死角となり捕球が出来ず、形上では捕手からの送球がレフトへそれる結果となり、この間に浅場が同点のホームイン。さらにこれを刺そうとしたレフトからのバックホームも大きく高めにそれる悪送球となり、この間に２塁走者も一気に生還し、サヨナラのホームイン。ＴＮＣスパークスが土壇場で一気に試合をひっくり返す劇的な逆転サヨナラ勝利で初優勝を決めた。 ▲レフトからのバックホームが大きくそれ・・・ ▲サヨナラのランナーが歓喜のホームイン 　サヨナラの直後ホームベース上では、ＴＮＣスパークスナインによる歓喜の抱擁と胴上げがいつまでも続いていた。試合後、ＴＮＣスパークス・永森監督にアークカップが贈られ、両軍が意地とプライドを賭けた激しい一戦の幕がついに閉じた。

▲劇的勝利でＴＮＣが初優勝を果たした 　この優勝戦はサヨナラのシーンだけではなく、絶妙はサインプレーや追い込まれた状態からの劇的なタイムリーヒットなど初回から見せ場が多く、互いに死力を尽くした壮絶な試合となった。また、優勝戦史上最多の時間を要するなど、一進一退の白熱した大熱戦となった。今後、アークカップの歴史に残る一戦となるのは間違いないだろう。それほど激しく、濃密で、この日駆けつけた観衆の心を魅了してやまない素晴らしい優勝戦だった。大会史に残る決勝を制して、ＴＮＣスパークスが王座をつかんだ。