6月10日(日)  優勝戦 1 2 3 4 5 6 7
59's (墨田区) 0 0 0 0 0 1 0 1
JAいちかわ (市川市) 0 1 0 0 0 0 1× 2



優勝戦実況

  「人、人、人」

 上記の表現が決して大げさではないくらい、26回目を迎えたアークカップの優勝戦には本当に多くの観衆が詰めかけた。東京ドームの応援団入口前には、溢れんばかりの人の数で長い行列待ちがあちこちに出来ていた。その様子は、まるで巨人戦前の東京ドームの入場ゲートを見ているかのような光景だった。特にJAいちかわは、応援団を乗せた臨時バスが東京ドーム周辺に何十台も連なり、バスの添乗員さんがなびかせる旗のもと900人を超える大応援団が続々と東京ドームを目指した。この記録的な熱気の背景には、JAグループの野球に対する情熱、もっと言えば社員一人一人の愛社精神の高さがあった。また、59'sも数こそJAいちかわ程ではなかったものの、メンバー構成がかつて甲子園を沸かせた名選手がズラリ並ぶなど著名な選手が多かったためか、それを応援するたくさんのファンが3塁側に集まった。JAいちかわは特別としても、その数はおそらく例年の応援団と比べたらはるかに多いものがあった。

▲JAいちかわは900名の大応援団を結成


▲59'sに声援送る多数のファンも集まった

 そんな両チームに声援を送る応援団の地鳴りのような歓声に、審判のプレーボールの声も途中でかき消された。昼間のプロ野球・巨人戦終了後の2012年6月10日午後8時、大観衆の東京ドーム。JAいちかわ(市川市)と59's(墨田区)の決勝戦が始まった。


▲染谷が左中間へ先制タイムリー3ベース


▲JAいちかわが序盤で早くも先取点を奪う
 この試合、まずチャンスを迎えたのはJAいちかわ。初回、先頭の1番・三山がフルカウントからきれいにセンター前に弾き返し出塁。続く2番・飯泉がきっちり送り、いきなり1死2塁の先制の好機を作った。続く3番・半杭が四球を選び1・2塁となったあと、JAいちかわは4番・神山のときエンドランを敢行。内野ゴロの間に走者は2・3塁に進み、2死ながらさらにチャンスが続いた。この後5番・藤代がレフトフライに倒れ、JAいちかわはこの回は無得点に終わったが、この初回のリズムのある攻撃でまずは試合の主導権を握った。

 この成果が直後の2回、すぐに実を結ぶ。この回先頭の6番・安達が四球で出塁すると、7番・山崎の内野ゴロの間に2塁へ進み、この回もスコアリングポジションに走者を進める。ここで迎えた8番・染谷はカウント2-2からの6球目、真ん中高めのストレートをコンパクトなスイングでジャストミート。この打球が左中間を深々破る3塁打となり、2塁走者の安達が生還。JAいちかわが59'sの好左腕・森から先取点を挙げた。

 さらにJAいちかわは、4回にも1死から6番・安達がライト前ヒット、7番・山崎がストレートの四球で歩き1・2塁と追加点の好機を作る。ここで59'sは先発の森を諦め、2番手の丸山にスイッチ。この継投がピタリとはまり、丸山は後続を打ち取りピンチを脱した。

 丸山はその後も春のセンバツで準優勝した鳴門工時代を彷彿とさせる安定感のある投球でJAいちかわ打線を封じいく。この丸山の好投が、ここまでJAいちかわ先発の平澤を打ちあぐねていた自軍の強力打線を呼び起こす原動力となった。

 6回表、59'sは1死から8番・上野が四球で出塁。さらに上野は、続く9番・代打の藤原の5球目に盗塁に成功。1死2塁として、59'sはこの試合初めて走者を2塁に進めた。この一打同点の願ってもない好機に、代打の藤原がフルカウントからの7球目を右中間に弾き返す執念の2塁打を放ち、2塁走者の上野がホームイン。59'sは終盤についに試合を振り出しに戻した。

 さらに59'sは続く1番・吉崎が敬遠気味の四球で歩き1・2塁とチャンスを拡大すると、2番・野崎のところに今大会凡打なしのとっておきの代打・五味渕を送り、一気に勝負をかけてきた。さらに五味渕の初球を投げる前にJAいちかわの5番手・坂下がボークを取られ、59'sは1死2・3塁とさらに好機が広がった。文字通り、押せ押せの状態となった59'sは、五味渕の打撃に一層の期待が集まった。しかし、五味渕は3球ファールで粘ったあとの6球目、高めのややボール球気味のストレートを強振し空振りの三振。続く3番の好打者・椎名もセカンドフライに倒れ、59'sは逆転の最大のチャンスを逃した。

 59'sは続く最終回の7回も、先頭の4番・若林が四球で出塁するなどさらに攻め立てたが、代走・相場がJAいちかわ・坂下の絶妙な牽制で刺され憤死。その後安打で走者を出しただけに、惜しい攻撃で流れをつかみきれなかった。

▲代打・藤原が値千金の同点タイムリー


▲上野が生還し、試合を振り出しに戻す


▲期待の五味渕は三振に倒れ、逆転ならず

 試合は7回表を終了して1-1の同点。東京ドームには1死満塁から始まるサドンデスルールによる延長戦へ突入する空気も漂い始めたが、試合は意外な形で決着を見る。


▲先頭の染谷が絶妙なセーフティで出塁


▲互いに譲らぬ攻防は、思わぬ形で決着



▲本塁上には、瞬く間に歓喜の輪ができた
 7回裏のJAいちかわの攻撃。2回に先取点を挙げ、序盤こそペースを握っていたJAいちかわだったが、4回途中から登板した59'sの丸山の前に打線が沈黙。終盤は防戦一方だったが、この回ようやく好機が訪れた。

 この回の先頭打者で2回に先制点を叩き出した8番・染谷が、今度はセカンド前にプッシュ気味のセーフティバントを決め出塁。続く9番・木南が初球をきっちり送り、1死2塁と一打サヨナラの場面を作り、打席には1番・三山を迎える。

 ここで59'sは守護神の鈴木をマウンドへ投入。しかし、その初球が痛恨のワイルドピッチとなり走者が3進。サヨナラの好機が大きく広がった。ここで59'sは野手全員に前進守備を指示。ボールカウントが2-3まで進むなど緊張感のある場面が続いたが、最後は鈴木が雄叫びを上げる気迫の投球で三山を空振りに打ち取り2死。5回から代打で入っている続く2番・米山も2ストライクと追い込まれ、場内もいよいよ延長戦が濃厚という雰囲気が出てきた。

 しかし、この直後にまさかのプレーが起こる。鈴木がカウント2-2から投じた6球目、内角低めの投球を、捕手の上野がまさかの後逸。この間に3塁走者の染谷がホームインし、JAいちかわが劇的なサヨナラ勝ちを決め優勝。この瞬間、詰めかけたJAいちかわの大応援団の興奮は最高潮に達し、ホームベース付近にはJAいちかわナインの喜びの輪がいつまでも続いていた。

 試合終了の挨拶が終わると、JAいちかわのベンチ前ではすぐさま監督や組合長などの歓喜の胴上げが次々に行われた。大応援団をバックに舞うその胴上げシーンは例年以上に迫力十分で、まさに選手と応援団が一体となって勝ち取った勝利ということがよく表現されていた。

 一方の敗れた59'sナインは、試合終了直後は誰もが呆然とその場に立ち尽くしていた。精根尽き果てた表情でしばらくその場を動けなかったその様子は、まさにこの優勝戦のすさまじさを如実に物語っていた。

 その後閉会式が行われ、熱戦が続いた第26回大会の幕が閉じた。全てスケジュールが終了し静かになったグラウンドでは、両チームのナインがそれぞれ記念撮影をするなど、いつまでも名残惜しそうに東京ドームの大舞台を堪能していた。今回の優勝戦は、試合前から多くの草野球ファンが詰めかけるなど異例な形で始まった。これまで数ある草野球の大会が開催されてきたが、これほどの観衆を集めた大会はおそらく過去に一度もなかったと言い切っていいだろう。この大声援に後押しされた試合も、劇的なサヨナラ勝ちで決着するなど大観衆にふさわしい名勝負だった。

▲大応援団に応えるJAの歓喜の胴上げ



▲大会を沸かせた59's、惜しくもVに届かず